お店の話  第1話

A「こんにちは。どなたかいらっしゃいますかあ?」



「――――――――――」



店主「はーい。どなたでしょうか?」



A「あっ、いらしたのですね。実はこのあたりの、2番地21号のお宅に行きたいのですが、ご存じないですか?」



店主「うーん、この近くでねえ。分かりませんが。」



A「そうですか。それはお忙しいところを失礼しました。あの、ところで、こちらは何のお仕事をされているのですか?」



店主「ワインのショップをやっていますよ。もう十年になります。」



A「そうですか! 私、ワイン大好きなんですよ。だけど、お見受けしたところ、お客様も見かけませんが、ここはだいぶ奥まっているのか、お店を見つけるは難しいんじゃないのでしょうか? それと、ワインの商品もないし。」



店主「ハハハ、確かにお客様は来られませんね。この一年で数回ほどでしょうかね。」



A「それで、お仕事よく続けてこられましたね。拝見するとご年配のようで、余計なことを聞くようで恐縮ですが、生活のほうは大丈夫なんですか?」



店主「年金があるので何とかやっていますよ。それと、インターネットというやつのおかげで、商品をここに置かなくても、ホーム・ページで掲載しておけば、そちらから注文が入るようになっていますよ。まあ、そっちもあまり来なくなってしまいましたがね。確かに、2011年の大震災があってからはぴったりと注文が減りましたかね。」



A「そうだったんですか。失礼しました。どなたか、従業員とかご家族の方とか若い方はいらっしゃらないのですか?」



店主「こう見えても、私一人ですべてやっていますよ。創業の時からね。産地のワイナリーと直接交渉をして、輸送業者に依頼して、横浜港に着いたら通関業者に頼んで、関税やら消費税を払って、倉庫会社のワイン専用の倉庫に保管していますよ。」



A「それはすごいことですねえ。全部おひとりでやっているなんて、若いものでも中々できないことですよ。  少しお時間をいただいても大丈夫ですか?」



店主「御覧の通り、全く人影もありませんので私は大丈夫です。だけどあなたはどこかへ行く途中なんではないですか?」



A「もっとお話を聞かせてもらいたいのですが、この仕事が終わったらまたこちらに来てもいいですか?



店主「こんなおじいさんの話に興味があるならどうぞ。」



A「ありがとうございます。ワインのこととか、友人に詳しいやつがいて、話していることが全く分からないで、困っていたんですよ。しかも自慢たらしく言ってくれるし、悔しい気持ちを我慢していたので、お返しができたらさぞ気分が良くなるだろうと思ったんです。

それでは、また来ます。」


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