お店の話  第6話

拓「こんばんは。仕事の帰りに寄らせてもらいました。前回の続きがどうしても気になってまいりました。 奥様はどんな反応でしたか?」

店主「私自身がまだ半信半疑の気持ちだったけど、まずはオーストラリアでニールと荒金シェフと話し合ったことを言いましたよ。家内はこう言いました。「そんなことできるの?」 私も本当にできるのかなあと自問したことを覚えています。」

拓「それからどうなったんですか?」

店主「ともかく何から手を付けたらいいのか全く分からなかったので、最初に新宿の紀伊国屋書店に行って、関係するだろう本を思いつくままに買いました。全部で7冊になっていました。」

拓「どんな本だったのですか?」

店主「目についたものから選んだのが、「輸入手続き」「定年過ぎてからの起業」「会社形態か個人事業か」「個人事業の経理の仕方」「ワインの教本」「インターネットのお店の作り方」「酒販事業とは」などなど7冊でした。

拓「それ全部読んだのですか?」
店主「そう。読まないと、この世界は全くの素人で、私は何も分かっていないから読むしかなかったですね。読んでいるうちに、この仕事は、どうやら事業免許を取得する必要があると気が付いたんです。すぐに最寄りの税務署に行って相談してみました。すると簡単なことではないと指導されてしまいました。なぜかというと、届け出ではなく、申請して審査があるというのです。まず、自分の税金を自動車税も含めて全てきちんと支払っているか、国税を扱うので、資産力があるかどうか、酒販事業者として販売基準を満たしているかとか、分厚い書類をもらい、書いてみなさい、と言われて気持ちが少し折れました。」

拓「私ならここで、あきらめていますね、きっと。」
店主「私も半分ぐらいあきらめていましたね。アドバイスを受けるにしても身近に専門的な知人はいないし。そうだ、ネットで私の境遇に近い人を探して相談してみようと考えて、さっそくアプローチをかけたら親切に教えてくれました。それをいいことにして、知っている人に相談することが一番と悟り、特に不得意だったネット関係の情報を得るために、ヤフーや楽天のセミナーに何度も足を運びました。」

拓「でも、まだ奥様の了解は得られていませんよね?」
店主「その通りです。仕事を始めるのはいいけど、儲からない仕事はお断りですよ。年金生活なんですから!と。ほぼ事業の概略が見えてきたころに家内に話してみました。お店を持たないで、自宅でパソコンを使っての商売なので、その分経費は掛からない。ニールも荒金シェフも全面的に応援してくれるとか、家庭には迷惑をかけないなど根気よく話しましたが、やはり即答はなかったです。数か月たったころ、税務署の申請書が出来上がって、事業名もイメージができて、家内にお願いをしてみたところ、そんなにやりたいならやってみたらどうですかと言ってくれて、ありがとう!こんな感じでした。」

拓「感動的です! 奥様も熱心さに押されたんですね。」
店主「これが念願達成じゃなくて、始まりなんですよ。これからが実は本当に大変なことになっていくんです。まずは、税務署で開業届けを提出してから署長室で署長さんから酒販許状を恭しくいただき早速家内に報告しましたね。それからは、ネットのショップをオープンし、オーストラリアからニールと荒金シェフがオープン・パーティに来てくれるので、その準備などあわただしい日々の連続でした。」

拓「ワイナリーのオーナーとシェフがわざわざオーストラリアから来てくれるなんて、すごいオープン・パーティですね。どんなでしたか?」
店主「南青山の会場に、120名ほど親しい方々に来ていただきました。ワインとマリアージュした荒金シェフの手づくり料理は、さすがにメルボルンでも超有名なシェフだけに皆さん大満足でした。家族も友人も快く手伝ってくれたのがうれしかったです。実は音楽もやっていたので、「ワインと美味しい料理と音楽と」という銘で皆さんが喜ぶ顔を見ていて、人生最高という気持ちでしたね。」
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