お店の話  第2話 2018.9.22

A「こんにちは!  先ほどお邪魔しましたものですが、店主さんはいらっしゃいますか?」 「――――――――」



店主「 はーい。 どちら、あっ。さっきいらした方ですね。どうしました?見つからなかったですか?」



A『いえ。 お陰様で目的の家はわかりました。仕事も終わったので、ワインのお話を伺いたくてこちらに参りました。 お邪魔でしたら遠慮しますが。』



店主「ああ、そうでしたか。そんなに興味があるのならどうぞ。まあ、こちらにお座りください。いきなりワインというわけにもいきませんから、お茶でも持ってきましょう。」



A「いえいえ、お構いなくお願いします。」



店主「さてどんなお話をいたしましょうか?」



A「 そうですね。まず最初に、ワインを飲むならわかりますが、それをお仕事として販売するというのはかなり思い切ったように思うのですが、なんでまたこのお仕事をやる事になったのか、そのいきさつみたいなことを伺いたいですね。」



店主「そうねぇ。その質問はどなたからもよく聞かれます。そしていつも言うのですが、話し出すと長くなりますよとお断りしています。いいですか?」



A「ぜひ聞かせてください。」



店主「私はある生命保険会社に勤めていました。40歳のころ会社から突然オーストラリアへ転勤だと言われて、家族も一緒にシドニーで4年間過ごすことになりました。 ある時、メルボルンへ出張して、宿泊ホテルのピアノバーで一人飲んでいたら、隣の男から声をかけられて、話が弾むうちに、結局ウィスキーを1本開けるほど痛飲してしまったのです。よく朝、二日酔いでしたが、どうやら今度のイースターの連休に家族を連れて彼の家に行くことを約束していたらしいと、おぼろげながら思い出して、大変なことを約束してしまったと後悔しきりでした。」



A「お酒の上では、私もよくやっちゃいますよ。翌日後悔するようなことを。分かります。」



店主「帰宅してから、家内や子供たちにその話をしたら、信じてくれないんですよ。だって、シドニーからメルボルンまで、1200kmほども離れて遠いし、まだ英語わかんないし、外人の家に泊まるのは嫌だよと全員反対。だけど、聞いてくれ、男同士が約束したら、守らないと日豪関係にひびが入るし、日本人が馬鹿にされるから、とか説得して渋々行くことになったのです。」



A「私も結婚していて、子供もいますが、そんな状況で家族を言い負かすなんて私には絶対できません。すごいですね。うらやましい。」



店主「ともかく、自宅を車で出発して、シドニー駅から夜行列車に車も貨物として載せて、翌朝メルボルン駅に着いたら、向こうの家族も来ているではないですか。私の子供は10歳、8歳、4歳の3人息子。あちらは、女、男、女の3人でほぼ同じ年齢構成でした。」



A「私の子供も、8歳と5歳です!」



店主「ということは、今のあなたと同じ年頃だったんですね。彼の家はメルボルンから200kmほど西北にある、レッドバンクという、大変な田舎で、近づくほどにだんだん不安になってきて、とんでもない約束しちゃったかなと反省の念が込み上げてきたのを覚えています。」



A「家族が不安がる気持ち、わかりますよ。」



店主「ところが、彼の家に着いたとたん、さすがは子供たち、元気に遊び始めてくれてほっとしたんです。イースターの日はチョコレートで出来た卵を親たちが庭のあちこちに隠しておき、子供たちはそれを見つけるのが楽しい年中行事なんですね。 しばらくしたら、彼、ニールと言う名前なのですが、ニールが私にこっちへ来いというので行ったら、ちょうどいいから仕事を手伝ってくれというじゃないですか。 トラックの荷台からブドウを下すので、そのブドウを、スコップであっちの機械に移してくれと言っているらしい。らしいというのも、なんで私が何のためにやるのか意味が分からないので途方にくれていても、どんどんブドウが下ろされてくるので、流れ作業を止めるわけにもいかず黙々とやりました。  今思うと、私がワインの仕事をやるきっかけとなった最初の場面でしたね。」



A「すみません。もっともっと聞きたいのですが、家に帰らないとうるさいものですからこの辺で失礼します。」



店主「だから言っておいたでしょう? 長くなるからと。」



A「明日、土曜日なのでまた来てもいいですか? この続きをぜひ聞きたいです。」



店主「明日も明後日もいつも暇ですから、私はいいですよ。だけど家族で揉めないようにね。」


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